L’ARLESIENNE 「プティの夕べ」その2

「プティの夕べ」。こちらは後半の2公演で踊った「アルルの女」の感想です。

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ゴッホ「アルルの女」


「アルルの女」はプティの作品の中でも特にシンボリックな表現が冴えているバレエではないでしょうか。ニジンスカヤ作「結婚」へのオマージュでは、と言われる群舞の使い方も、主人公二人も、動きは主に心理や人間関係を象徴的に表すものが多く、通常の意味での演技とは一線を画しているのではと思うのです。だからダンサーにもリアリスティックな描写ではなく心象風景を描くことを要求されているのかな、とロベルトの踊りを見て感じました。




12, 15 SETTEMBRE 2008 (鑑賞:9月12,15日)
SERATA PETIT 「プティの夕べ」
Balletto di ROLAND PETIT ローラン・プティのバレエ
Ripresa coreografica di LUIGI BONINO e JEAN-PHILIPPE HALNAUT 振付再現:ルイジ・ボニーノ、ジャン=フィリップ・アルノー

L’ARLÉSIENNE 「アルルの女」
Basato sul lavoro letterario e teatrale di ALPHONSE DAUDET アルフォンス・ドーテの小説と戯曲を元に
Nuova produzione del Teatro alla Scala スカラ座新制作
Musica: GEORGES BIZET 音楽:ジョルジュ・ビゼー
(Editore Breitkopf & Härtel; proprietà Fondazione Teatro alla Scala)
Vivette: MRTA ROMAGNA ヴィヴェット:マルタ・ロマーニャ
Fréderi: ROBERTO BOLLE フレデリ:ロベルト・ボッレ
e il CORPO DI BALLO DEL TEATRO ALLA SCALA スカラ座バレエ団
Scena di RENÉ ALLIO 装置:ルネ・アリオ
Costumi di CHRISTINE LAURENT 衣裳:クリスティーヌ・ロラン
Luci di JEAN-MICHEL DÉSIRÉ 照明:ジャン=ミッシェル・デジレ

LE JEUNE HOMME ET LA MORT 「若者と死」
Libretto di JEAN COCTEAU 台本:ジャン・コクトー
Allestimento del Teatro alla Scala 舞台装置:スカラ座
Musica: JOHANN SEBASTIAN BACH 音楽:ヨハン・セバスチャン・バッハ
Orchestrazione di OTTORINO RESPIGHI オーケストレイション:オットリーノ・レスピーギ
(Editore Casa Ricordi, Milano)
Le Jeune homme: MICK ZENI 若者:ミック・ゼーニ
La Mort: MARTA ROMAGNA 死神:マルタ・ロマーニャ
Scene di GEORGES WAKHEVITCH 美術:ジョルジュ・ヴァケビッチ
Costumi di KARINSKA 衣裳:カリンスカ
Luci di JEAN-MICHEL DÉSIRÉ 照明:ジャン=ミッシェル・デジレ

CARMEN 「カルメン」
dal racconto di PROSPER MÉRIMÉE プロスペル・メリメ
Allestimento del Teatro alla Scala 舞台装置:スカラ座
Musica: GEORGES BIZET 音楽:ジョルジュ・ビゼー
Arrangiamento e orchestrazione di DAVID GARFORTH 編曲&オーケストレイション:デヴィッド・ガーフォース
(Editore Les Temps Liés, Amsterdam)
Carmen : LUCIA LACARRA カルメン:ルシア・ラカッラ
Don José : MASSIMO MURRU ドン・ホセ:マッシモ・ムッル
Il Torero : FRANCESCO VENTRIGLIA 闘牛士:フランチェスコ・ヴェントリーリア
Tre Banditi : MARIA FRANCESCA GARRITANO, ANTONINO SUTERA, MATTEO GAVAZZI 三人の盗賊:マリア・フランチェスカ・ガッリターノ、アントニーノ・ステーラ、マッテオ・ガヴァッツィ
e il CORPO DI BALLO DEL TEATRO ALLA SCALA スカラ座バレエ団
Scena e costumi di ANTONI CLAVÉ 美術&衣裳:アントーニ・クラヴェ
Luci di J EAN-MICHEL DÉSIRÉ 照明:ジャン=ミッシェル・デジレ

ORCHESTRA DELL’ACCADEMIA DEL TEATRO ALLA SCALA スカラ座アカデニー管弦楽団
Direttore: DAVID GARFORTH 指揮:デヴィッド・ガーフォース






「若者と死」「カルメン」の最終公演の翌々日にはもう「アルルの女」の初日です。『死』をテーマにした3つの作品を短期間で踊り分けて消耗してしまったのか、フレデリに扮するロベルトはいつもよりほっそりして見えました。彼を華奢に見せるための工夫もされていて、男性群舞には背の高いがっしりしたコールドのメンバーが中心に選ばれていました。マッシモの踊る時とは全員ではないけれどメンバーが違ったようです。ロベルトの隣にいるのは彼よりも背が高いマッテオ・ボンジョルノさん。顔もかなり大きな方なので、ロベルトの顔がなんとも痩せてはかなげに見えます…

ロベルトのフレデリ。一体全体なんであんなに色っぽいんでしょうか?最近の彼には本当にプティ作品を踊るのに必要な艶が出てきたと思います。

美しい若者が次第に狂気にとらえられ、必死に闘って力つき、最後には自分の感情にさいなまれて死んでしまうまで。自己を完全に放棄して死に身をゆだねるフレデリは官能的ですらありました。

フェリとの素晴らしい「椿姫」を見た頃は、一途な愛の表現に、素晴らしい演技力を身につけたなぁ、とこそ思いましたが、こんな色気は彼にはなかったような気がします。今回は特に、5月のパルマ公演と比べてもより“フェミニン”なロベルトを感じました。この言葉が正しいのかどうかちょっと分かりませんが。


スカラ座のデビューに当たる12日は、ヴィヴェットのマルタさんとのパートナー・リンクはパルマほどは上手く行っていなかった部分があったようです。ロベルト一人の踊りでも、初めのうち少し軸足が安定しないことがありました。でも、一つ一つの振付の意味がロベルトの踊りを見ているとクリアに分かってきて素晴らしかったのです。さらに、二回目公演の15日はすべてが完璧に行きました。


婚礼を告げる冒頭部分。表面的には幸せそうな二人ですが、いかにもろい関係かということは、群舞の男性の膝に乗ったヴィヴェットをフレデリが抱き上げるところから始まり、フレデリが持ち上げた右足の甲にヴィヴェットが足を乗せてからリフトするところや、彼女を降ろした後、両腕の上腕部を持って2回転させるところなどのバランスが取りにくい不自然な動きによく表れています。


次はパ・ド・ドゥだけ踊られる時にも取りだされる部分ですが、ヴィヴェットの手のひらに顔を横向きに乗せたフレデリが、そこから自分の心の中の葛藤に入ってしまうシーン。ヴィヴェットを含むその他の登場人物たちはその場に静止してしまいます。ゴッホ風の背景幕の前までさまよって行った後、下手と上手でのトゥール・ザン・レール。そして腕を大きく振りまわしてから自分の首に巻きつける振り。それぞれの形が明確に示され、とても美しい踊りでした。

鐘の音に乗って群舞がお祝いの踊りを踊った後は、フレデリとヴィヴェットが手をつないだままフレデリがアラベスクから回転したり、また床を使った動きも増えて、彼が少しずつおかしくなっていく様が示されます。ヴィヴェットを背負わされるフレデリ…


次のパストラールでのロベルトは音楽を大きく使っての跳躍。はたから見ると道化たジェスチャーも混じり、それが壊れていくフレデリを表して恐ろしい。右手と右足が一緒に出る動き、女性の体の曲線を両手でなぞる動きは一つ間違うと平凡で下品になってしまいかねないと思うけれど、そういう振りを大胆に使いながら芸術に昇華する可能性をちゃんと与えているプティはやっぱり凄いです。

男たちの集団。アルルの女に魅かれるロベルト。手に入らないものだからこそ必死で求めるのです。体がバラバラな方向へ引っ張られるようなジャンプ。そして胎児のように縮こまります。男たちに無理やり担がれ、ヴィヴェットの手を取り上半身を大きく回すロベルトはまるで生贄にされる青年のよう。床に降りてからはアラベスクした彼をヴィヴェットが回転させます。二人は調和を見出そうと努力するけれどもそれは果たせない。両側から群舞に担がれて接近する二人。逃れようとしたロベルトは跳躍した後、十字架の形に腕を広げて男性群舞に再び担がれます。

そしてヴィヴェットと無理やり抱きあわされ二人はワルツを踊ります。その間にゴッホ風の南仏の背景幕はUPし、あたりは暗くなります。フレデリは最後に舞台上手奥から下手舞台前へのディアゴナルの跳躍で自分の気持ちへの必死の抵抗をしますが、ヴィヴェットは足元に倒れこむフレデリを思わずよけてしまいます。


そしてメヌエット。下手舞台前に二人が並びます。ロベルト…色っぽ過ぎます。あまりにも美しくて…どうして苦悩するロベルトはこんなに美しいんでしょうか?エロスと死はやはり隣り合わせなのです。

何度も同じことを言って申し訳ありませんが、ここはやはりVTRのゲランが素晴らしすぎます。彼女は頭をカクカクさせるのですが、私が見た他のダンサーさん(マルタ・ロマーニャ、エマヌエーラ・モンタナーリ、イザベル・シアラヴォラ)は上半身の胸のあたりを突き動かすのです。そうすると表現が肉感的になってしまってヴィヴェットの悲しみが伝わりにくい感じがしました。

切ない表情を浮かべて忘我の境地で右腕を前に伸ばすフレデリ。アルルの女を追い求めています。そしてブラウスを脱いでいく…おぼつかない指で前の結び目をほどき、手首のボタンを外します。初夜の夜なのに、ヴィヴェットをどうしても受け入れられず、それだけではなくアルルの女をどうしても忘れられない。その状況に彼の神経はもう耐えられないのですね。ロベルトの途切れることのない集中力とマルタさんの悲しみに満ちた表情が一体化して素晴らしい表現になりました。


音楽は劇的なファランドールへ。最後の闘いを闘うロベルト、素晴らしかったです。パワーとスピリットが完全に一致して、幻影に追いかけられ、ついに闘いに敗れ死に身を投じる青年の姿は演技とも思えないくらいでした。唯一、ちょっと気になったのは、舞台奥の窓の方を向いて、ズゴンドで上手、下手に蹴るような動きをする部分があるのですが、軸足を結構プリエしすぎてちょっと美しくなかったような気がしました。脚が長すぎるんですかね…(笑)

戯曲ではヤギは死ぬまで闘った、というエピソードにフレデリは自分の姿を投影して夜明けまで自分自身と闘うわけですが、ロベルトの踊りからもフレデリの心理がよく伝わりました。窓への身投げまでのクレッシェンドの仕方が、まったくぶれなくて、見事なクライマックスだったと思います。



素朴でナイーフなフレデリ。前半の二作とはまた違うキャラクターですが、三作見終わった後で、今のロベルトにいちばんぴったりなのは、このフレデリ役ではないかな?と思いました。ロベルトが自分をさらけ出して素晴らしい表現をしてくれた、と思える感動的な舞台でした。


若者の死への恐怖と苦しみ、そして陶酔。考えてみると「アルルの女」には「若者と死」との共通点がかなりあるのですね。違いは、都会と南仏。それから特に違うのは物語の時代設定でしょうか…








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photo: amica (ひえ~。これしかないのか!?とお思いの皆さん。そうなのです。お許しを…!)



追記:慈悲深いbambiさんから美しい写真が届きました!どうもありがとうございます!ロベルト素敵…

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photo: bambi




            








この記事へのコメント

bambi
2008年09月28日 23:20
こちらも一番乗りでごめんなさい(笑)
「アルルの女」ホント素晴らしかったですね!
壊れて行く繊細な青年をロベルトがどう演じるのか、ドキドキしながら観た二日間。
恋に取り付かれた若者の狂気は天才プティの見事な振付けによって目に見えるものに形作られているけれど、ロベルトの完璧な美しさと彼ならではのパワフルな踊り、そして指先まで行き届いた表現力でこそここまで観客に訴えることが出来るのだと確信しました。壊れていく若者フレデリになりきったロベルトの真に迫る表情に胸が苦しかった。後ろ向きでのシーンも多かったけど、ロベルトの後ろ姿は雄弁でかえって切なさがつのりました。
amicaさんの言うように最後のファランドールが特にすごかった。あの3分を観るだけのためにミラノまで行っても後悔しない、と言えそうなくらいでした。
amica
2008年09月29日 09:50
bambiさん
「アルルの女」って今までよく知らなかったけれど、プティの中でも凄い作品ですね。何よりビゼーの音楽をそのまんま使っているだけなのに、まるでこのバレエのために書いた音楽みたいにぴったりしているところが驚きで、私はいまや、CDを聴くだけで、ロベルトが飛んだり跳ねたりする振付が頭の中でぐるぐるしてしまいます(笑)。

ロベルトの後ろ姿って素敵ですよね~。ロミジュリのバルコニー・シーンでも、本当にどんな表情をしているかをほうふつとさせる彼の背中の演技が大好きです。
ほみ
2008年09月29日 22:34
こちらにも(笑)失礼。
amicaさんの詳しい説明はわかりやすくてさすが。
ロベルトのフレデリは最後に向かって緊張感が高まっていくところが素晴らしく納得でした。
「アルルの女」もっと上演して欲しいですね。またスカラ座で実現しても私はちょっと辛いけど、ロベルトのもマッシモのももう1回ずつぐらい観たかったです。
amica
2008年09月29日 23:38
ほみさん
こちらへもコメントありがとうございます。

マッシモの「アルル」も踊りがきれいでしたね~。やっぱりポール・ド・ブラが素晴らしいのね。あと回転の時に鋭くピュッって飛ぶのも好き。軸がぶれないのね。

最後のファランドールの時に、指さし点検みたいな振付ありません?マッシモはしなやかに腕がしなるんですけど、ロベルトはかなり男性的というか直線的なんです。でね、家で家事とかしているときに何となくあの振りをやりたくなっちゃうんですよね~。跳躍と違ってあれなら真似できますしね。ハイッって(笑)。

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