ロベルト・ボッレのバレエな日々

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zoom RSS オルフェウスの愛と生涯 L'amore e la vita di Orfeo

<<   作成日時 : 2011/11/01 12:54   >>

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ロベルトを愛する皆様、お久しぶりです。ハンブルクでジョン・ノイマイヤーがロベルト・ボッレのために振りつけた作品「オルフェウス」を観てまいりました





大変ご無沙汰しました。皆様、お元気ですか?私もおかげさまで何とかやっています。ただ…この夏はプライヴェートも仕事も次々と新しい出来事が起こり(それもあまり喜べない事ばかりが相次ぎ…)てんてこ舞いでした。ここにきてやっと少し落ち着いた感じです。

ロベルトが東京バレエ団「白鳥の湖」をキャンセルしたのも今では随分前のこととなってしまいました。発表を聞いた時はただひたすら茫然でしたが、その後の日本における色々な状況を見ていると、個人的には彼が来日しなくて良かったのかな…と思うようになりました。もちろん日本でしか彼の公演を観る事が出来ない方が大勢いるわけですからそれを考えると本当に無念でなりませんが、やっぱり愛するロベルトに万が一の事があったら私は嫌ですし、不安や心配の気持ちのある人に無理やり来てもらいたくないですから。幸い日本を愛して来日してくれるアーティストだって大勢いるわけですし。でも、実は私の王子様はロベルト以外にも何人かいるのですが(←えっ、こんなところで告白)、はっきり言って全滅でした。いいの、私は片思いが好きなの…ぐすん。



身辺忙しく、その後のロベルトの活動はもうあまりフォローできなくなってしまっていた私ですが、「オルフェウス」だけは見逃したくありませんでした。これは初めてロベルト・ボッレのために作られた全幕もののバレエですから。しかもノイマイヤーのような巨匠による作品です。ロベルトにとっての初演となったバーデン・バーデンで行われた10月14日、15日の公演は急な仕事が入ってしまい涙を飲んであきらめましたが、ついにハンブルク公演には行く事が出来ました







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「オルフェウス」公演のポスター。ハンブルク市内各地でポスター盗難がおこったという噂デス…








かの地に降り立つと…なんだかトラウマが蘇って来ます。いや〜。ノイマイヤーさんを理解する為にとか言って「ニジンスキー」や「欲望という名の電車」を観に来たり、ロベルトが直前に怪我をして降板しオットー・ブベニチェクさんが踊った「オルフェウス」を4回も観ちゃったり、ハンブルクには色々な思い出がありますからね…思い起こせば、怪我で降板、しかもそれがかなり深刻な怪我で多分手術(この辺は正式発表されていないので憶測ですが)、そして何カ月もの間ロベルトが踊れなくなってしまった時に、正直言って私はノイマイヤーさんを恨みました。完璧な肉体で絶頂期にいたロベルトをこんなにして、もし、一ヶ月後でも、あるいは三年後でも無疵で幸福なロベルトを私に返してくれなかったとしたら、彼をめちゃくちゃにやっつけてやる(激怒)!…みたいな(後半はフランソワーズ・サガンの小説「熱い恋」朝吹登水子訳の一節のパロディーです)。言うまでもなくロベルトが私のものだった事はついぞないので返すも何も無いんですけれども、まあ私の心境としてはそんな感じでした。

…2年の月日がたち、ロベルトにも私にも色々な事が起こりました。そして、今回ハンブルクでこの「オルフェウス」を観て、あまりにも月並みな言い方ですが、私はノイマイヤーさんに対して感謝の言葉が見つかりません。ロベルト・ボッレというアーティストを鏡のように反映する、そして普遍的な美をも併せ持つ素晴らしいバレエ「オルフェウス」をノイマイヤーさんは作ってくれました。ロベルトのバレエ人生を賭けただけの価値があったと思います。この日が来て良かった。本当に良かったです。







ということで、ここからは例によって大河小説的な「オルフェウス」感想文です。独断と偏見に満ち、またネタバレ満載ですので、これからこのバレエをご覧になりたい方はご注意ください。


Donnerstag, 27, Freitag, 28 Oktober 2011

Orpheus
Ballet von John Neumeier

Musik
Igor Strawinsky
“Apollon Musagète” und “Orpheus”
Heinrich Ignaz Franz Biber
Aus den “Rosenkranz-Sonaten”
Peter Blegvad&Andy Partridge
aus dem Album “Orpehus the Lowdown”

Choreografie, Kostüme & Lichtkonzept
John Neumeier

Bühnenbild
Ferdinand Wögerbauer

Musikalische Leitung
Alexander Soddy

Violine
Daniel Garlitsky

Philmarmoniker Hamburg

Orpheus: Roberto Bolle
Apollo, sein Vater: Edvin Revazov
Kalliope, seine Mutter: Anna Laudere
Hermes, der Seelengeleiter: Kiran West
Eurydike: Hélène Bouchet

Shatten des Hermes: Alexandr Trusch, Konstantin Tselikov




以上、プログラムのキャスト表はドイツ語なのでそのまま掲載しました。プログラムにはあらすじ、といってもシーン名のリストと使用された音楽ですが、これがドイツ語と英語で掲載されていたので英語の方を書き写しつつ感想を書いていきます。

プログラムの最初の方のページにノイマイヤーさんの「オルフェウス」に関するお言葉が載っていました。これは大事だと思うので友人の助けを借りて訳しました。



Meine Geschichte von Orpheus spielt im Heute.
Apollo ist sein Vater, Kalliope seine Mutter.
Orpheus aber ist ein Mensch, ein Künstler, ein Geiger – ein Tänzer.
Seine Berufung liegt in der Schönheit seiner Kunst.
Die Zufällige Begegnung mit Eurydike verändert sein Leben.
Der Zufall beeinträchtigt Orpehus’ Berufung,
macht diese tiefer und existentieller.

Er verliert seine große Liebe.
Die Liebe führt ihn dahin, woher noch nie ein Lebender zurückkehrte.
Er will Eurydike zurückholen. Doch weil er ein Mensch ist, scheitert er.

John Neumeier


私のオルフェウスのストーリーは現代の話です。
彼の父はアポロ、彼の母はカリオペ。
でもオルフェウスは人間であり、アーティストであり、ヴァイオリニストであり、そして…ダンサーなのです。
彼の使命は芸術の美しさの中にあります。
彼が偶然エウリディーチェに出会った事は彼の人生を変えます。
運命はオルフェウスの人生を変え、より厳しく、実存主義的なものにするのです。

彼は彼の大きな愛を失います。
愛は彼をこれまで生きとし生けるものが誰も返ってくる事が出来なかった世界へ導きます。
エウリディーチェを取り戻すために。でも彼は人間なのでそれに失敗するのです。

ジョン・ノイマイヤー














バレエ「オルフェウス」全2幕


Overture序曲(音楽Igor Stravinsky: Lento sostenuto from “Orpheus”)
ストラヴィンスキーのバレエ音楽「オルフェウス」の冒頭部分を使用してバレエはスタートです。静かな下降音階によって始まる曲は悲しみと清々しい美しさを持って心に迫ります。

幕が開き照明が入り始めるとそこには大理石的な模様が少し入った白が基調の世界があります。舞台奥にコの字型で真ん中に開口部がある壁があり、この壁はかなり厚みもあり、これがワイヤーで吊られて色々な角度に変化する事によって違う舞台が出現するのです。踊るスペースを大きく取らなければいけないバレエにおいて見た目も美しいし、シンプルですが良い解決策だと思いました。

舞台下手側にはこちらに背を向けて椅子に座ったヴァイオリニストが、舞台中央には黒いボルサリーノ帽子をかぶった黒衣のヘルメスがいます。ヘルメスはヴァイオリンを手に持っていてそれを回転させたり。やがて照明が明るくなってくると上手奥にやはり黒い上着を肩にかけた二人の男性が頭をお互いの肩にもたれさせて立っています。



First Part
第一部



The place of destiny
Orpheus, son of Apollo and Calliope(音楽Igor Stravinsky: “Apollo Musagète”)
Apollo’s gift: music
The sound of the violin
Apollo’s lesson, Calliope’s inspiration

「運命の場所」と題されたこの場面、同じストラヴィンスキーでもおなじみ「アポロ」からの音楽でスタートします。上手奥にいた二人はアポロとオルフェオ。背の高いロベルトよりまだもう少し身長がある北欧神のような容姿のエドウィン・レヴァツォフがオルフェウスの父親アポロ役。バランシンのアポロへのオマージュもあるのでしょうか、生まれたばかりのオルフェオであるロベルトは、おぎゃ〜って口を開けたり、膝でよちよち歩いたり。父親の跳躍をまねようとして転んじゃったり。少し痩せてますます大きく見えるグリーン・アイズを大きく見開いた無垢な表情がまさに生まれたばかりのオルフェウス。可愛かったぁ…



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photo: Stephanie Schweigert



父親は結構オルフェウスを手荒く扱ったりもします。転んだオルフェウスの腕を乱暴に締めあげたり。最初からあったヴァイオリン・ケースもなかなか開けて中を見せてあげない。そのうちにオルフェウスがつと彼から離れ、燕尾服を基にデザインしたような黒い長いジャケットを羽織って退場しようとするとやっとケースを開けます。オルフェウスは興味津々で戻って来る。母親カリオペも登場して息子オルフェウスにヴァイオリン=音楽を教えます。三人で手をつないで輪になって踊る所なども出てきてやはり少しバランシンを想起させますが、全体の振り付けはもちろんノイマイヤーの世界。金髪と黒髪の二人の美神がピルエットやジャンプ合戦をしたり、二人で青い衣裳のカリオペをリフトしたり…。やがて父と母は二人だけで踊り始め、希望に満ちたオルフェウスは濃い青い色のジーンズ・ジャケットを羽織って腕まくりすると、ヴァイオリン・ケースを持って地上に降りて行きます…



On earth
Street music
Eurydice – first encounter
His concert – success and glory
Eurydice – second, definitive encounter

下手の椅子の上に乗りヴァイオリンを持って立ちつくすオルフェウス。その前を街の人々が行き交います。短いフェイク・ファーをはおった娼婦が彼の前においてあるヴァイオリン・ケースにコインを入れ、これが彼が音楽で稼ぐ最初のお金になります。オルフェウスと同じジージャンを着た若者とカップルで通りかかったエウリディーチェ。椅子の上のオルフェウスを見て、はっとして彼を見つめます。彼もまた彼女に気が付きじーっと見つめ合う二人。エウリディーチェ役は2年前にこのバレエが作られた時にも演じたエレーヌ・ブシェさん。ほっそりして大変美しいダンサーです。彼氏に引っ張られてその場を立ち去るエウリディーチェ。

しかし彼女は戻って来ます。お互いを知るための軽い出会い。Boy meets girl…そして二人は別々の方向へ退場。

場面はクラシック・コンサートへと変化します。色とりどりのイヴニング・ドレスの女性達とエスコートする黒い服の男性達。それぞれが単色のロング・ドレスの女性達に混ざって、シンプルな淡い色彩の花柄ワンピース姿のエウリディーチェもコンサートに来ています。皆が椅子に座ると、舞台奥にある赤いカーテンが開きます。そこにはヴァイオリンと弓をもったオルフェウスとその後ろにはアポロ。アポロがヴァイオリンと弓を引き取り、オルフェウスは最初のソロを踊り始めます。

これが、そうです、バランシンの「ミューズたちを率いるアポロ」のアポロのヴァリエーション、ガラなどでいつも踊られるあの部分の音楽を使って踊られます。まず舞台奥から中央まで静かに歩んでくるロベルトにハンブルクの客席は水を打ったような静けさ。アーティストとしてのカリスマが必要な場面です。そしてあの音楽が鳴るのと同時にロベルトは大きく腕を広げ、高いルルベで天を希求します。長い手足を自在に使って大きく舞うオルフェウス。気品があり、音楽を敏感にとらえた動きは隅々まで端正です。腕をヴァイオリンに見立てて弾くしぐさをしたり。歩むようなリズムの曲なのでステップでそれを表現し、また横に大きく飛ぶジャンプの2連発、マネージュ、すべてが大きな踊り。ロベルトの体調は万全のようでした。

コンサートが終わり、観客はすぐに去っていきます。下手舞台前にある椅子に下手の方を向いて横顔を見せて座りうなだれた姿勢をとるオルフェウス。芸術家の孤独を表しているのでしょうか。そこにエウリディーチェが静かに戻って来ます。ゆっくりとオルフェウスの頭を起こし、彼を上向きにして抱きしめ、髪の毛から額、鼻筋から口までを一本の指で優しくなぞるエウリディーチェ…

ここで二人は初めて本当に出会います。ヴァイオリンを彼から取り上げ、それをゆっくりまわしながら舞台の上手に行くエウリディーチェ。床に置かれたヴァイオリンを真ん中に二人はじっと見つめあった後、そこから飛び退って客席側に足を向けて舞台にばったり倒れます。そしてエウリディーチェは両足を揃えて膝を高く上げ、そのままオルフェウスの方に転がっていきます。彼女を膝に抱きあげ、背中をぐっと支えて立ち上がり、彼女を頭上に高くあげて舞台をゆっくり回るオルフェウス。クラシック・バレエのような気取ったポーズではなく脚を普通に曲げた格好でリフトされているエウリディーチェとの二人が作る造形はそのままモダン・アートの彫像にしたいような美しさでした。例によってノイマイヤー特有の難しそうなリフト満載のこのパ・ド・ドゥは二人の純粋な愛を語ってとても美しかったです。



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photo:Stephanie Schweigert



やがて二人の周りにコンサートの観客達が戻って来ます。音楽もジャジーな部分に差し掛かり、オルフェウスはエウリディーチェから離れて観客の称賛に囲まれています。愛情いっぱいの視線を彼女に時々向けながらも、賞賛の渦の中に巻き込まれ、次々に観客と握手をするオルフェウス。エウリディーチェが退場した後も、観客達と一緒に踊り続ける。幸福の絶頂。やがて彼らが去り、下手の椅子の上に立ち、ヴァイオリンを胸に深々とお辞儀をするオルフェウス。



The accident- Eurydice lost(音楽:Peter Blegvad/Andy Partridge: “Galveston” from “Orpheus the Lowdown”)
爆発音が響きます。そしてボーリング場の騒音とともに舞台奥に白い光が当たり、事故にあった車、そしてそこから黒い布に包まれた物が舞台中央に転がり出てきます。それはエウリディーチェの死体です。



Grief(音楽:Igor Stravinsky: Apothéose from “Apollon Musagète”)
Powerless – despondent – despairing

椅子の上にいたオルフェウスは最初、怯えた顔つきで椅子から降り、ゆっくりヴァイオリンを椅子の上に置きます。そして恐ろしい予感に震えながら後ろを振り向くオルフェウス。エウリディーチェの元に駆け寄ります。彼女を抱きあげ、嘆くオルフェウス。いびつな形にねじれたままになっている彼女の脚を愛おしそうにまっすぐに直す…オルフェウスの後ろにアポロが現れます。エウリディーチェの上に泣き伏すオルフェウスの頭をヴァイオリンで触るとオルフェウスは糸に引かれたようにそちらに引っ張られます。アポロはオルフェウスを天上界に連れ戻そうとするのですね。操られたように動くオルフェウス。音楽はアポロが最後にパルナッソス山に登っていく所の音楽です。しかしオルフェウスはどうしてもアポロについていく事が出来ません、叫び、地団太を踏んで痙攣的な動きを見せ、そして床に倒れてしまいます。

下手前までヴァイオリンを持って来て椅子にすわるアポロ。そこに短いフェイク・ファーの娼婦が現れ、床におかれたヴァイオリンを不思議そうに凝視します。椅子に座るアポロに気が付くと「お兄さんいかが?」とファーを肩からおろしますが、アポロは当然拒否(笑)、彼女はファーを元に戻し、そこに立ちつくします。



Lost in Galveston(音楽:Peter Blegvad/Andy Prtridge: “Galveston” from “Orpheus the Lowdown”
またボーリングの音が響き始めます。同じような格好の娼婦たちが何人も登場して踊り始めます。パイプベッドが舞台中央に。その上で苦悩するオルフェウスの上に何人もの娼婦たちが重なります。ベッドの頭の方から身を乗り出し彼女達から逃れようとするオルフェウス。



Music regained(音楽:Heinrich Ignaz Franz Biber: passacaglia in G minor from the “Rosary Sonatas”)
The music of Orpheus moves trees and rivers

ベッドから降りてやっと自由になった彼。振り向くとそこにはヴァイオリニストが登場します。オルフェウスはシーツをめくってベッドの下を見るとそこに自分のヴァイオリンを見出すのでした。下手に運ばれたベッドに歩み寄りそこに腰を下ろすヴァイオリニスト、そして信じられないようなあの音楽が始まります…

こうしてこのバレエの中でも最も心に響く場面の一つである、エウリディーチェを失ったオルフェウスの絶望の場面が始まります。オルフェウスの心はひたすらエウリディーチェを求めます。ここで使われている17世紀の北ボヘミア(現在のチェコ)出身のヴァイオリニスト、ビーバーが作曲した「ロザリオのソナタ」からのパッサカリアが、素晴らしいのです。ヴァイオリンの無伴奏曲なのですが魂が直接語りかけてくるような神秘的な雰囲気に包まれていて…

このロベルトのソロは非常に長いです。そして、もう正気ではないのではと思うほどの激しい感情を表現するものです。痙攣するように踊りだしたオルフェウスは、感情が強すぎて自分の身体が勝手に動いてしまうような踊りです。足を踏みならし、胸を叩き、磁石のようにくっついてしまった両手を引き離し、自分で自分の口をふさごうとしても叫びは出てしまいます。舞台に倒れるオルフェウス。音楽とこの動きが相まって、正直言って初めの日に観た時には滂沱の涙が止まらず、見続けるのに苦労しました。冷静にバレエとして観る事はとても不可能でした。二日目は舞台全体が見張らせるバルコニー席だったので、どんなにロベルトが舞台を大きく使って踊りぬいているかを見る事が出来ましたが…大きなジャンプ、そしてトゥールアンレールから片足で着地してそのままアラベスクするような動きもピッタリ決まってびくともしません。

途中から群舞のダンサー達が茶色い長い衣裳に頭には木の葉の冠を乗せて登場します。オルフェウスの音楽は森の木々をも感動させたといいますが、この木々の表現はシンプルで詩情にあふれていて素敵でした。オルフェウスが天を仰ぎ、木々の腕の中に倒れるとエウリディーチェの幻想でしょうか?彼女が現れます。エウリディーチェがオルフェウスのヴァイオリンを自分の胸において舞台に横たわります。そのヴァイオリンに吸い寄せられ近づくオルフェウス。彼がヴァイオリンを持ち上げると彼女の幻影も一緒に起き上がりますがその姿はまた消えてしまいます。

そして苦悩のあまり最後に彼はヴァイオリンを抱えて座り込んでしまいます。いつも白いロベルトの肌や顔が朱に染まり、髪は乱れ…そこに戻ってきた最初の娼婦は、彼のあまりの状態を見かねて自分のファーを脱いで彼の肩にかけますが、オルフェウスはそれにも殆ど気が付きません。



Hermes and the impossibile journey(音楽:Peter Blegvad/Andy Partridge: “Necessary Shadows” from “Orpheus the Lowdown”)
音楽に終わりが訪れます。そしてヘルメスが登場し、オルフェウスを連れて冥界に降りて行きます。



これで幕となり、第一部は終わりです。ハンブルクのお客さんは、特に初日のお客さんは幕が閉まるまで、そして閉まりきった後も一瞬まだシーンとしていて、その後で爆発的な拍手となっていました。なんて素晴らしい観客なのでしょう。

それにしてもこのバレエ…とにかくオルフェウスは出ずっぱり、踊りっぱなし。異常な気力と体力が必要とされると思います。しかし、ロベルトは本当に入ってしまっていて、一瞬たりとも大変そうな瞬間や、疲れを見せる瞬間がありませんでした。しかも二日間連続で二日目は一日目よりももっとテンションが高かった。ロベルトのオルフェウス、本当に輝いていました。







Second Part
第二部



第二部はそういうわけで冥界が舞台です。青い照明の舞台。舞台前に斜幕。紗幕が上がりオルフェウスとヘルメスがいます。冥界への旅が始まる所です。


The realm of shadows
Journey to the underworld “seperate journeys” - Orpheus. Eurydice. Hermes(音楽:Igor Strawinsky: “Orpheus”)

第二部の冥界では、舞台奥の壁が次第に降りてきて途中から上下逆さまに斜めに吊られます。また、舞台の中央あたりに、この壁の形を上下逆さまにコピーした中央上に開口部がある透明なビニール素材の幕が下ろされ、冥界である事を示します。

ヘラクレスに連れられ冥界への旅に出るオルフェウス。一方、ヘルメスの影である二人の男に連れられたエウリディーチェもまだ命を失って間もないので冥界への旅の中途にあるようです。でも彼女の顔にはすでに感情は見られなくなっています。ヘルメスと彼の二人の影はオルフェウスとエウリディーチェを交互にフォローしながら、それぞれが会う事が無いように冥界に導くのでした。



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photo:Stephanie Schweigert



Orpheus in shadowland(音楽:Peter Blegvad/Andy Partridge: “Noun Verbs” from “Orpheus the Lowdown”)
冥界には死者達が行き来しています。黒いヴェールを頭からかぶった人達がゆっくりと舞台を横切ります。エウリディーチェもオルフェウスも脚を大きく広げたまま頭を逆さまにされるリフト等があるのですが、これは地上と違う重力の冥界である事を表しているのでしょうか。

オルフェウスとエウリディーチェはそれぞれヘルメス達にリフトされたり、オルフェウスの場合は反対にヘルメスをリフトしたり。2年前に観た時のエルメスはヨハン・ステグリで、かれはやはりシャープなちょっと皮肉な雰囲気がヘルメス役に良く合っていましたが、今回踊ったキーラン・ウェストさんにはその諧謔的な味わいはなかったけれど、踊りは別に不足はありませんでした。

ヘルメスさん、なぜだかなかなか二人を会わせないのです。床に置いてあるヴァイオリンを見て、オルフェウスの事を思い出すエウリディーチェ。透明の幕の前と後ろで求めあう二人。やっとエウリディーチェにも触れ、彼女をリフトしても彼女は感情を表しません。オルフェウスとエウリディーチェはやがて背景に退き、死者達の踊りが少しあります。ヌード色の衣裳とぴったりした黒い帽子を被った男女が少しずつ登場してきて、無機質な現代音楽に合わせて不気味な動きを繰り返します。横の姿を見せ、腕の位置とかはちょっとギリシャのつぼのポーズっぽい感じも…



His violin as bond(音楽:Heinrich Ignaz Franz Biber: Lamento from the 6th sonata from the “Rosary Sonatas”)
Orpheus regains Eurydice - but must not look at her

ついにたまらなくなったオルフェウスは彼のヴァイオリンを奏で始めます。ここでまた美しいビーバーの音楽が始まります。今度は、ヴァイオリニストはピットの中にいます。彼の独奏ではなく、オルガンとテオルベの変形したような楽器が通奏低音で入っていました。6番のソナタからラメント「嘆き」。は〜、何という響きなのでしょう。そしてオルフェウスの踊りには第一部最後の踊りにあった激しさは影をひそめ、エウリディーチェを失った嘆きが踊られます。死者達はやがて静かにグループを作ります。舞台奥は半分くらいの高さまでが明るくなっていてその上は黒いのですが、群舞の人達がオルフェウスからヴァイオリンを取り上げ頭上に高く差し上げる、その彼らのシルエットが美しいのです。オルフェウスはヴァイオリンと引き換えにエウリディーチェを取り戻したのでしょうか…?



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photo:Stephanie Schweigert



The journey back(音楽:Igor Stravinsky: “Orpheus”)
Lover’s madness forces his gaze toward Eurydice

そしてついにオルフェウスの嘆きを聞き入れたヘルメスが、彼にサングラスをかけます。そして、舞台奥からは感情を取り戻したエウリディーチェが彼に近づいてきます。

ここの二人の踊りが、4月にスカラ座でブシェと踊ったパ・ド・ドゥです。そういえばここまで来て気が付いたけれど、あの時はしっかりTシャツとジャケットを着ていたロベルトですが、それに良く考えるとオットーだって着ていたと思うけれど、今日のロベルトは上半身裸ではありませんか…ノイマイヤーさんのサービスですか?(←こらっ!)翌日よく観察していたら、冥界の最初の方で、ヘルメスと一緒に退場して、次に現れる時にはすでにジャケット無しでした。ま、どうでもいいんですけれど…裸の方が踊りやすいのかな?見た目としては、2年前オットーさんで見た時にはヘルメス達との見分けがつきにくい!という自分の感想メモが残っているので、確かに上半身裸の方がオルフェウスがすぐ分かって良かったです。

このパ・ド・ドゥ、エレーヌさんの美質がとても良く出ていると思いました。彼女のオルフェウスへの愛はとても母性的で控えめなんです。オルフェウスとの再会を喜び、シンクロした踊りの動きを見せているけれど、やがて彼が自分の方を見てくれない事に気が付き、失望が彼女の中に芽生えます。でも、決して彼を無理に振り向かせようとしたり、彼を責めたりはしない。そして、ふっと諦めて去っていこうとします。その彼女をつかまえるオルフェウス。そして彼女に抱きしめられたオルフェウスはたまらなくなってサングラスを取る。こういう素敵な女性だから愛しているのだな、というのが良く解るパ・ド・ドゥでした。ストラヴィンスキーのバレエ音楽「オルフェウス」の中で主人公二人が冥界から戻るパ・ド・ドゥのために書かれた大変美しい音楽がここで使われています。



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photo:Stephanie Schweigert



二人はじっと見つめ合います。そしてキッス。二人の顔は喜びに輝いてはいませんでした。どうしてもそうしないではいられない、という切ないキッスでした。そして二人は第一部の出会いのパ・ド・ドゥと同じ形に舞台に倒れます。エウリディーチェは同じように両膝を高く上げ、オルフェウスの方にむかって転がります。しかし、オルフェウスが彼女を抱き上げると、それはもう彼が知っているエウリディーチェではありませんでした…



Irrevocable loss(音楽:Peter Blegvad/Andy Partridge: “Eurydice” from “Orpheus the Lowdown”)
そしてオルフェウスはエウリディーチェを失います。それも目の前で変質していく彼女に彼はなすすべもなく見つめるだけでした。エウリディーチェは身体をひきつらせ、自分の世界に入ってしまい、そしてオルフェウスの視界から消えて行きます。恐ろしい喪失の瞬間でした。



On earth
The audience abandons the artist(音楽:Igor Stravinsky: “Orpheus”)
Orpheus alone

彼はいつのまにか地上に戻っています。再び彼のコンサートが開かれますが、楽想を失った彼の音楽に人々は椅子を蹴立てて立ち去ります。最後に一人、優しい女性が彼に拍手をし、しかしその彼女も静かに立ち去ります。

椅子の背を前向きにしそこに座ってうつむくオルフェウス。アポロとカリオペが再び現れます。第一部の最後に出て来た森の木達が、今度は薄い水色の衣裳で登場し、川となります。オルフェウスは彼らに抱き取られ、息を引き取ります。死ぬ前に椅子に昇り虚空を見上げたロベルト=オルフェウスの頬には涙が光っていたように見えました。その悲しみの表情には心を打たれました。そして意識を失った彼の身体は川に受け止められ、ゆっくり床に横たえられます。舞台奥から静かに現れたエウリディーチェが椅子に座り、倒れた彼をメランコリックに見つめるところで幕となります。







これまで芸術の歴史上、オルフェウスをテーマにした作品は数多く作られてきました。オペラ、バレエ、映画…その中でもノイマイヤーとボッレのコラボレーションによって生み出されたこのハンブルク・バレエの「オルフェウス」はその完成度の高さとオリジナリティーではっきりとした跡を歴史に残す作品になったと思います。

そしてロベルト。結局は意志の力でしょうか、バレエの終わりまで微塵も疲れを感じさせることなく、全編ひたすら出っぱなしのこの役で最高の踊りを見せてくれました。演技に関してはスカラ座のガラで踊った時にも思ったのですが、ロベルトはオルフェウスを演じる必要が無いんです。オルフェウスは彼自身だから。自分をさらけ出す、という事は、それはそれで難しいはずだけれども、今まで彼で見て来たどんな舞台でも有り得なかったほどロベルトのオルフェウスは自然でした。2年前に観たオットーは暗く内に籠った感情を秘めていたし、ハンブルク・バレエに詳しい方に伺った所、アレクサンドル・リアブコ(サーシャ)は大変に情熱的なオルフェウスだったそうです。ロベルトのオルフェウスには彼の純粋さ、端正さ、そして愛情深さがストレートに出ていたと思います。

そして、ロベルトの苦悩の表現は何と言ったらいいのか…今回のバーデン・バーデンでの上演にあたり、祝祭劇場マガジンFestspielhaus magazineの2011年9月16日号にノイマイヤーさんのインタビューを含む「オルフェウス」の記事が掲載されていました。そこにノイマイヤーさんの言葉として、「私はとても興奮しています。(オルフェウスという)人物像は彼(ロベルト)の中で熟するための時間を持ったと思います。そしてそれは必ずや再演のためのリハーサルで興味深い方向に発展する事でしょう。」とありましたが、確かに2年前に順調に初演していたらこのような深い表現が可能だっただろうか?その後の様々な苦悩を経たからこそこの踊りがあるのかもしれない。そう思わせるロベルトの踊りだったと思います。

最後に、ノイマイヤーさんへの感謝の気持ちを込めて、このバーデン・バーデンの記事の中のノイマイヤーさんの言葉を抜き出して訳してみます。例によってスージーが助けてくれたのでドイツ語からイタリア語、そして日本語という伝言ゲーム的翻訳で、ニュアンスが完全に写し取れていなかったら申し訳ありません。






「二年前には私達はこのバレエのリハーサルの殆ど最後まで来ていました。」「今、ロベルトはもう一度役を習得しなくてはならない。他のダンサー達から役を学ぶときのように。これはこの役に関して彼にとって初めての事です。」

「アーティストの日常には、何か他のために蒔いた種が素晴らしい結果を出すことがあります。彼とはスカラ座で「椿姫」のリハーサルをしました。彼の作り上げたもの、彼の熱心さ、アルマン役に成り切りこの役を形作ろうとする意思に大きな印象を受けたのです。そして彼自身や他の人々から、まだ彼が大きな役の創造をしたことがなく、つねに他の人のために作られたバレエを踊ってきた事を知りました。」

「直観的に、彼が私にインスピレーションを与え得る事、彼とのクリエーションがとても良い結果を生みだすと感じたのです。」

「彼のような有名なスターは、ダンスのテクニックが完璧で、肉体の美しさがあればもう十分、ということで常にその完璧さが表面的な物にとどまるリスクがあります。しかしアルマンでの彼の仕事が彼の中にはもっとたくさんの物がある、と私に感じさせたのです。」

「ロベルトと一緒に彼の表面的な美しさの奥に入り、彼のイメージを壊せるか、という挑戦に魅了されたのです。」
「人生の経験の無いアーティストは無価値です。」
「(エウリディーチェを失うという悲劇のお陰で)彼(オルフェウス)は自分自身の音楽を見つけます。」
「おそらくロベルトはこのように新しく、彼にとって難しい何かを演じた事はないでしょう。でも彼は、彼自身から出て来た純粋の動きの形を見つけたと思います。それは彼のイメージとは何の関係もない。彼は真っ正直に動いた。なぜならそれは彼自身のキャラクターと関わっているからなのです。」

「真の苦しみを感じなければなりません。悲しみがどうやったら美しく見えるかを示すだけではだめなのです。」
「(この「オルフェウス」の創作にはボッレとだけリハーサルした事について)私としては珍しい事です。ボッレはカンパニーでは新顔で私の振付作品を踊った事はありませんでしたから。通常はいくつかの役にそれぞれ2,3人のダンサーを配置してリハーサルするんです。でも私のダンサーたちは私と仕事をする事に慣れており、反応も速い。その事が彼を臆病にさせ、もしくは彼らのやり方に従い、真似をするような事があってほしくなかった。オルフェウス役をロベルトだけから引き出したかったんです。」

「ロベルトとは沢山の時間を費やしました。特に彼と(ジャン・)アヌイ(の戯曲「エウリディース」を)読んだり、音楽だけを聴いたり、このステップの次はあのステップをやらなければいけない、という事だけにならないように。」

「勿論、私にとって(彼とのこのバレエの創作は)大きな好奇心と喜びでした。一緒に仕事を進め、濃い仕事をしながら、笑い合える瞬間もあるというように。」

「彼に美しくない事をやってくれるよう要求しました。ロベルトはアポロも他の物も踊れます。彼のテクニックと魅力とカリスマ性をもってすれば結果は常に素晴らしいでしょう。でも、どんなアーティストにとっても、自分を醜くする意思というのはとても大切な事に思います。私は常に、醜さをさらけ出す事を怖がらず、そのために常ならぬ美しさに到達するアーティストを尊敬するのです。」






以上です。ノイマイヤーさん、ロベルトの真の姿を見せてくれてありがとうございました。そしてそれはきっと、アーティストとしてのノイマイヤーさんの姿を映すものでもあるんですよね…









お友達がくれたバーデン・バーデンのカテコ写真です。



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amicaさん

amicaさんがロベルトの「オルフェウス」を見ることができて、なんだか自分の事みたいに嬉しい。amicaさんのレポを読んでると、自分も見てきたような気分になるから不思議です。グルックの「オルフェオとエウリディーチェ」しか知らなくて、ストラヴィンスキーのオルフェウスも聴いたことはないけれど、なんかそれらしい音楽も頭の中で鳴ってます。(笑)

私は、どちらかと言うと、保守的な演出が安心するタイプなので、オペラの、訳のわからない時代設定や変な読み替えをして???なのが、とっても苦手なのです。
でも、紹介して下さっているノイマイヤーの言葉を読んで、「オルフェウス」が、ギリシャ神話の単なる読み替えではなく、「オルフェウス」というまったく新しい作品なんだと思いました。ロベルトという存在がこの作品を創らせたのですね。私がロベルトのオルフェウスを生の舞台で見ることは叶わないけど、テレビでもDVDでもいいから見てみたいと強く思いました。

yuri
2011/11/05 00:09
yuriさん

コメントどうもありがとうございます。私が「オルフェウス」を観た事をそんなに喜んで下さるなんて、なんと心が広くお優しいのでしょう

ノイマイヤーさんのこのバレエは“オルフェウス”というテーマを使った100%創作なわけですが、アーティストという表現者を語るバレエである所が、興味深い所でもあり、そして難しさでもあると思いました。ロベルトの「オルフェウス」はアーティストも私達と同じ生身の人間なんだ、ということを何より感じさせてくれた。彼らの人生も私たちの人生と同じように喜びも苦しみもある。当たり前だけれど忘れがちなことでもあると思うんです。彼の演技の自然さが、それを示してくれたと思います。

は〜、映像ですか?それはロベルト・ファン全員の夢ですよね…
amica
2011/11/05 03:05

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オルフェウスの愛と生涯 L'amore e la vita di Orfeo ロベルト・ボッレのバレエな日々/BIGLOBEウェブリブログ
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